中央競馬の騎手年収はいくら?収入の仕組みとランキングを解説

競馬の知識

G1レースのゴール板を駆け抜ける一瞬の栄光。数万人の大観衆の歓声を浴びながら、勝利のガッツポーズを見せる騎手(ジョッキー)の姿は、多くの競馬ファンを魅了してやみません。しかし、その華やかな世界の裏側で、彼らが一体どれほどの報酬を得ているのか、具体的に知る人は少ないのではないでしょうか。

この記事では、そんな中央競馬の騎手の年収というテーマに徹底的に焦点を当て、多くの方が抱く素朴な疑問から専門的な内容まで、深く掘り下げて解説していきます。例えば、騎手の給料の仕組みはどのようになっているのか、そして最も気になる競馬の騎手の賞金の取り分は具体的に何パーセントなのか、という基本から丁寧に紐解いていきます。

もちろん、話はそれだけでは終わりません。デビューしたばかりの新人騎手の年収の実態から、中央競馬とは異なる環境で戦う地方ジョッキーの年収との間に存在する格差の背景、さらには地方騎手の年収ランキングまで、多角的な視点から競馬界の経済事情に迫ります。歴史上で一番稼いだジョッキーは誰なのかという興味深い問いにも、具体的な数字を挙げてお答えします。

加えて、ジョッキーの年収ランキングを日本国内だけでなく世界規模で比較することで、日本の競馬界がいかに特異な存在であるかも明らかになるでしょう。「中央競馬の騎手の騎乗手当はいくらですか?」といった具体的な疑問にも、詳細なデータを用いて回答します。競馬というスポーツを、経済的な側面から深く理解したい方は、ぜひ最後までご覧ください。

この記事で分かること

  • 中央競馬の騎手の具体的な収入構造と4つの主要な給料の仕組み
  • 新人騎手からトップ騎手まで、キャリアステージごとの年収の目安と実態
  • なぜ差が生まれるのか?中央競馬と地方競馬の騎手の間に存在する年収格差の背景
  • 国内外のトップジョッキーたちがどれだけ稼いでいるかが分かる最新の年収ランキング
  1. 中央競馬の騎手年収の内訳と仕組み
    1. 騎手の給料の仕組みを解説
      1. 騎手の収入を構成する4本の柱
      2. 出来高制の厳しさ:収入ゼロのリスク
    2. 競馬の騎手の賞金の取り分は5%
      1. 獲得賞金の分配率(平地競走の場合)
      2. 「本賞金」と「付加賞」
    3. 中央競馬の騎手の騎乗手当はいくら?
      1. 中央競馬の騎乗手当・騎手奨励手当(2024年時点)
      2. 手当だけでは生活できない現実も
    4. 新人騎手の年収はどれくらい?
      1. 衝撃デビューを飾った新人騎手の例
      2. 高収入の裏にある厳しい現実
    5. 地方ジョッキーの年収との比較
      1. 中央競馬と地方競馬の経済規模と年収の比較
      2. 地方競馬内にも存在する「地域間格差」
  2. 中央競馬の騎手年収ランキングと比較
    1. JRA騎手の年収ランキングTOP10
      1. 2023年 JRA騎手 推定年収ランキング(進上金ベース)
      2. ランキングから見えるトップ騎手の条件
    2. 地方騎手の年収ランキングを紹介
      1. 2023年 地方競馬騎手 推定年収ランキング(進上金ベース)
      2. 見過ごせない「格差」の問題
    3. 一番稼いだジョッキーは武豊騎手
      1. 武豊騎手が打ち立てた主な大記録
      2. 武豊騎手の生涯進上金(推定)
      3. 唯一無二の存在である理由
    4. ジョッキー年収ランキングの世界比較
      1. 世界の騎手 生涯獲得賞金ランキング TOP10(2021年発表)
      2. なぜ日本の賞金はこれほど高いのか?
    5. 中央競馬の騎手年収についての総括
      1. 本記事の重要ポイントまとめ
    6. 関連記事リンク

中央競馬の騎手年収の内訳と仕組み

  • 騎手の給料の仕組みを解説
  • 騎手の賞金の取り分は5%
  • 中央競馬の騎手の騎乗手当はいくら?
  • 新人騎手の年収はどれくらい?
  • 地方ジョッキーの年収との比較

騎手の給料の仕組みを解説

中央競馬に所属する騎手の給料体系は、一般的な会社員が受け取る月給制や年俸制とは根本的に異なり、自身の成績が収入に直接反映される完全な「出来高制」が採用されています。彼らはJRAに所属するアスリートであると同時に、一人ひとりが独立した「個人事業主」と考えるのが最も実態に近いでしょう。そのため、年収は個々の騎手の実力、人気、そして日々の努力に直結し、トップジョッキーと若手騎手とでは天と地ほどの差が生まれるのがこの世界の大きな特徴です。その収入の柱は、主に以下の4つの異なる性質を持つ要素から成り立っています。

騎手の収入を構成する4本の柱

  1. 進上金(しんじょうきん):レースの獲得賞金から分配される成功報酬。年収の大部分を占める最も重要な収入源。
  2. 騎乗手当・騎手奨励手当:レースの着順に関わらず、騎乗するだけで支払われる基本的な手当。「最低保障給」に近い役割を持つ。
  3. 騎乗契約料:特定の厩舎に所属する騎手が、その厩舎の管理馬に騎乗した際に支払われる契約料。所属騎手ならではの収入。
  4. 調教料:レースに向けた競走馬の調教(トレーニング)に騎乗した際に支払われる手当。特にフリー騎手にとっては重要な収入源。

これらの収入源の中で、年収の額を決定づける最も大きな要素が「進上金」です。コンスタントに勝利を重ね、特に賞金額が高いG1などの重賞レースで活躍するトップ騎手は、この進上金だけで年間数千万円、場合によっては1億円以上を稼ぎ出します。まさに、騎手の実力と価値が最も分かりやすく反映される部分と言えるでしょう。

一方で、レースの着順に関わらず騎乗するだけでもらえる「騎乗手当」や「騎手奨励手当」も、職業としての安定性を支える上で非常に重要です。特に、まだキャリアの浅い若手騎手や、なかなか勝ち星に恵まれない騎手にとって、この手当は生活を支えるための貴重な収入源となります。ただし、これも騎乗依頼があって初めて得られる収入であり、依頼がなければゼロになるという厳しさも持ち合わせています。

出来高制の厳しさ:収入ゼロのリスク

YUKINOSUKE

騎手は個人事業主であるため、怪我や騎乗停止などでレースに騎乗できなくなれば、その間の収入は基本的にゼロになります。安定した固定給がない分、常に結果を出し続けなければならないというプレッシャーと、いつ収入が途絶えるか分からないというリスクを常に背負っているのです。

さらに、騎手の働き方、つまり特定の厩舎に所属するか、どこにも所属しない「フリー」として活動するかによっても、収入の内訳は変化します。「騎乗契約料」は厩舎に所属する騎手だけの収入であり、安定した騎乗機会を得やすいというメリットにも繋がります。逆に、フリーの騎手にとっては、様々な厩舎の調教を手伝うことで得られる「調教料」が重要な収入源となるだけでなく、有力馬との出会いや調教師へのアピールの場、つまり「営業活動」として極めて重要な意味を持つのです。

このように、騎手の年収は単なるレースの成績だけでなく、所属形態や営業努力といったビジネス戦略的な側面も複雑に絡み合って決まります。どの騎手も、自分に合ったスタイルで高みを目指しているのですね。騎手の年収は4つの異なる収入源が複雑に組み合わさって形成されており、そのバランスは個々の騎手の置かれた立場や戦略によって大きく異なってくるのです。

競馬の騎手の賞金の取り分は5%

騎手の年収の大部分を形成し、その実力を最も明確に示す指標となるのが「進上金」です。この進上金とは、騎乗した馬がレースで5着以内に入り賞金を獲得した際に、その賞金の一部が馬主から関係者へと分配される成功報酬のことを指します。では、賞金全体のパイの中から、具体的にどれくらいの割合が騎手の取り分となるのでしょうか。

結論を先に述べると、平地競走における騎手の取り分は獲得賞金の5%、より危険度が高い障害競走では7%と、日本中央競馬会(JRA)の競走事業規程によって明確に定められています。一つのチームとして競走馬をレースに送り出す競馬界では、賞金は関係者で分かち合うという文化が根付いており、その分配率は以下のように決まっています。

獲得賞金の分配率(平地競走の場合)

分配先 割合 役割と背景
馬主 80% 競走馬の所有者であり、購入費用や毎月かかる高額な預託料など、経済的な負担の大部分を担う。競馬サークル最大の貢献者。
調教師 10% 厩舎の経営者であり、競走馬のコンディション管理、トレーニング方針、出走レース選択など、全てを統括する現場の最高責任者。
騎手 5% レース本番で馬の能力を最大限に引き出すための騎乗者。チームの想いを背負い、最終的な結果を出す重要な役割を担う。
厩務員 5% 日々、担当馬の最も近くで飼い葉(エサ)やりや体調管理、手入れなどを行うスタッフ。彼らの愛情なくして馬は走れない。

この分配率を、より具体的なレース賞金に当てはめて考えてみましょう。例えば、毎年秋に東京競馬場で開催される国際G1レース「ジャパンカップ」は、2024年時点で1着賞金が5億円と、国内最高額を誇ります。もしこのレースで優勝した場合、勝利騎手は5億円の5%に相当する2,500万円もの大金を、たった1回の騎乗、時間にしてわずか2分半ほどのレースで手にすることになるのです。

1レースで2,500万円というのは、一部のトップ経営者やプロスポーツ選手の年俸に匹敵する金額です。G1レースを勝つことの経済的なインパクトがいかに大きいかが分かりますね。

もちろん、これは最高峰のレースでの話ですが、G1のような特別な舞台でなくとも、騎手の収入における進上金の重要性は変わりません。例えば、最も下のクラスである「3歳未勝利戦」であっても、1着賞金は約510万円に設定されています。このレースを勝利した場合でも、騎手には25万5千円の進上金が入ります。週末に複数回勝利すれば、それだけで100万円近い収入を得ることも不可能ではありません。

「本賞金」と「付加賞」

騎手の進上金の計算対象となる「賞金」には、5着まで支払われる「本賞金」の他に、特定の条件を満たした場合に加算される「付加賞」も含まれます。これにより、実際の賞金総額は出馬表に記載されている金額よりも高くなることがあり、騎手の収入もその分増えることになります。

このように、賞金額の大きいレースでいかに上位に入着し、勝利を積み重ねていくか。それが、数千万円、そして1億円という大台を稼ぎ出すトップジョッキーへの唯一の道と言えるでしょう。

中央競馬の騎手の騎乗手当はいくら?

進上金がレースの結果によって大きく変動する成功報酬であるのに対し、騎手の収入の安定した基盤を形成するのが、レースに騎乗するごとに必ず支給される「騎乗手当」と「騎手奨冷手当」です。これらは、レースの着順や獲得賞金額に一切関係なく支払われるため、騎手という職業の基本的な収入を保障し、生活の安定を支える重要なセーフティネットとしての役割を担っています。特に、まだ勝ち星に恵まれない若手騎手や、コンスタントに上位入着することが難しい騎手にとって、この手当は自身の技術を磨き続けるための、そして生活していくための極めて貴重な収入源となるのです。

中央競馬における騎乗手当の金額は、レースの重要度を示す「グレード」や、平地競走か障害競走かといった競走の種類によって、非常に細かく設定されています。当然ながら、より格付けが高く、注目度も高いレースほど手当の金額は高くなります。

中央競馬の騎乗手当・騎手奨励手当(2024年時点)

以下は、1回の騎乗ごとに支給される手当の詳細です。

レースの種類 騎乗手当 騎手奨励手当 合計支給額
G1競走(平地)
例:日本ダービー、有馬記念など
64,500円 16,000円 80,500円
その他の重賞(平地)
例:G2、G3レース
44,500円 16,000円 60,500円
その他の競走(平地)
例:未勝利戦、1勝クラスなど
27,500円 16,000円 43,500円
J・G1競走(障害)
例:中山グランドジャンプなど
144,200円 16,000円 160,200円
その他の重賞(障害)
例:J・G2、J・G3レース
114,200円 16,000円 130,200円

この表から分かるように、最も格付けの低い平地の一般競走に1回騎乗するだけでも、合計で43,500円の収入が確定します。これは、日給として考えれば非常に高額です。さらに注目すべきは、平地競走に比べて危険度が格段に高い障害競走の手当です。最高峰のJ・G1レースでは、騎乗するだけで16万円以上の収入となり、これは障害専門騎手の技術と勇気に対する敬意の表れとも言えるでしょう。

トップ騎手は土日の2日間で15レースから20レース近く騎乗することも珍しくありません。仮に18レース全てが一般競走だったとしても、手当だけで週末に約78万円、1ヶ月(4週)で300万円を超える計算になります。これに進上金が加わるのですから、トップ騎手の収入がいかに高額になるか、具体的に想像できますね。

手当だけでは生活できない現実も

一方で、騎乗依頼が少なければ、当然この手当も得られません。例えば、月に数回しか騎乗機会がない騎手の場合、手当による収入は十数万円程度にとどまります。そこから保険料や経費などを支払うと、生活は決して楽ではないでしょう。安定した騎乗機会を確保し続けることの重要性が、この手当の仕組みからも浮き彫りになります。

このように、「騎乗手当」と「騎手奨励手当」は、騎手の収入の安定した土台を築く一方で、その金額は騎手としての人気や信頼度、つまり「どれだけ多くの騎乗依頼を得られるか」という実力に直結しているのです。

新人騎手の年収はどれくらい?

毎年2月、JRA競馬学校の卒業式がニュースとなり、未来のスター候補生たちがプロの世界へと旅立ちます。倍率10倍以上とも言われる狭き門を突破し、3年間の厳しい訓練を乗り越えた彼らですが、プロとしてデビューした初年度の年収は、その活躍次第でまさに雲泥の差が生まれるのが現実です。

もちろん、デビュー当初は調教師や馬主からの信頼もまだ厚くなく、有力馬への騎乗機会を確保することは容易ではありません。そのため、なかなか勝ち星を挙げられず、騎乗手当や調教料を中心に収入を得ることで、年収が一般的な新社会人と同程度の300万円~500万円程度に留まるケースも少なくないでしょう。これは、騎手という特殊な技能を持つアスリートとしては、決して高い金額とは言えません。

しかし、騎手の世界は年齢やキャリアに関係なく、実力さえあれば誰にでもチャンスが与えられる世界です。才能と弛まぬ努力が認められれば、1年目から目覚ましい活躍を見せ、周囲を驚かせることも十分に可能です。

衝撃デビューを飾った新人騎手の例

近年では、特に印象的なデビューを飾った騎手がいます。

  • 小沢 大仁(おざわ だいと)騎手:2021年にデビュー。初騎乗となったレースで見事に初勝利を飾ると、同日の最終レースも勝利。デビュー当日に2勝を挙げるという、福永祐一元騎手らに次ぐ史上4人目の歴史的快挙を成し遂げました。この日の賞金だけで計算しても、彼が得た進上金は80万円を超え、騎乗手当などを加えると、デビューからわずか2日間で120万円以上を稼いだとされています。
  • 今村 聖奈(いまむら せいな)騎手:2022年にデビュー。女性騎手として注目を集める中、1年目から破竹の勢いで勝利を重ね、最終的に51勝をマーク。これは、1987年に武豊騎手が記録した新人最多勝利記録(69勝)に次ぐ、歴代2位の素晴らしい成績でした。彼女のこの年の推定年収は、進上金と手当を合わせて5,000万円を超えたと言われています。

彼らの例は、新人であっても才能とチャンスを掴めば、同世代の社会人とは比較にならないほどの収入を得られるという、この職業の持つ大きな可能性を示しています。

高収入の裏にある厳しい現実

高額な収入の可能性がある一方で、騎手は常に危険と隣り合わせの職業です。時速60kmを超えるスピードで密集して走るレース中では、些細な接触や馬の故障が、落馬による生命の危機に直結する大事故につながることもあります。華やかな世界の裏側には、以下のような厳しい現実が存在します。

  • 厳しい体重管理:騎手はレースで定められた斤量(負担重量)を厳守するため、年間を通して厳しい食事制限と体重管理を強いられます。
  • 絶え間ないトレーニング:競走馬を意のままに操るための強靭な筋力とバランス感覚を維持するため、日々の過酷なトレーニングは欠かせません。
  • 精神的なプレッシャー:数億円もの賞金や、多くのファンの馬券がかかったレースで結果を出すという、計り知れないプレッシャーとの戦いが常にあります。

このように、新人騎手の年収は一概に「いくら」と言えるものではなく、本人の才能と努力、そして巡ってくるチャンスを確実に掴むことができるかで、その額は大きく変動します。ただ一つ言えるのは、高収入という夢の裏には、それ相応のリスクと、常人には計り知れないほどの努力が隠されているということです。

地方ジョッキーの年収との比較

日本国内の競馬は、農林水産省が管轄する特殊法人である日本中央競馬会(JRA)が主催する「中央競馬」と、各地方自治体(都道府県や市町村)が主催する「地方競馬」の2種類に大別されます。同じ「騎手」という職業でありながら、どちらのライセンスを取得し、どの舞台を主戦場とするかによって、その収入には歴然とした差が存在するのが現実です。

結論から申し上げると、中央競馬の騎手の方が地方競馬の騎手よりも年収は格段に高い傾向にあります。この構造的な格差を生み出している最大の要因は、言うまでもなく両者の事業規模、特にファンからの馬券売上と、それに伴うレース賞金額の大きさの違いです。

中央競馬と地方競馬の経済規模と年収の比較

以下の表は、両者の経済規模の違いと、それが騎手の収入にどのように反映されているかを示したものです。

項目 中央競馬(JRA) 地方競馬(NAR)
平均年収 約1,000万円 約300万円~500万円
トップクラスの年収 1億円以上 約5,000万円~6,000万円
(主に南関東競馬)
騎乗手当(1レースあたり) 約4万円~8万円 数千円程度
事業規模(年間馬券売上) 約3兆2,600億円
(2022年度)
約1兆580億円
(2022年度・全組合計)

(出典:JRA事業内容説明資料地方競馬全国協会(NAR)売得金額データ

表からも分かる通り、平均年収で倍以上の差があり、トップクラスの騎手になるとその差はさらに顕著になります。これは、G1レースをはじめとする高額賞金レースを全国規模で開催し、絶大な人気とブランド力を誇る中央競馬の馬券売上が、地方競馬全体の合計を3倍近く上回っているためです。この豊富な資金力が、高額な賞金や手厚い手当となって騎手たちに還元されているのです。

地方競馬内にも存在する「地域間格差」

地方競馬と一括りに言っても、その内情は様々です。大井競馬場などを擁し、賞金水準も高い「南関東競馬」と、その他の地域の競馬場とでは、騎手の収入にも大きな差があります。地方競馬でトップクラスの年収を得られるのは、ごく一部のリーディングジョッキーに限られるのが実情です。

しかし、このような経済的な格差があるからといって、地方競馬の騎手の価値が低いということでは決してありません。むしろ、より厳しい環境で技術を磨き、ハングリー精神を培った騎手の中から、スターが生まれることもあります。

地方競馬で圧倒的な実力を示し、難関とされる中央競馬の騎手免許試験に合格して移籍、そしてJRAのトップジョッキーとして大成功を収める騎手もいます。大井競馬出身の内田博幸騎手や、園田競馬出身の岩田康誠騎手などがその代表例です。彼らの活躍は、多くの地方競馬関係者にとって大きな希望となっています。

最終的に、どの舞台で戦うかによって収入の環境は大きく異なりますが、騎手個人の卓越した技術と、勝利への飽くなき執念こそが、自身の価値と収入を決定づける最も重要な要素であることに変わりはないでしょう。

中央競馬の騎手年収ランキングと比較

  • JRA騎手の年収ランキングTOP10
  • 地方騎手の年収ランキングを紹介
  • 一番稼いだジョッキーは武豊騎手
  • ジョッキー年収ランキングの世界比較
  • 中央競馬の騎手年収についての総括

JRA騎手の年収ランキングTOP10

騎手の収入が実力主義の「出来高制」である以上、その年の成績が年収に直結します。ここでは、JRAが公式に発表している2023年度のリーディングジョッキー(成績上位騎手)のデータを基に、騎乗馬が獲得した総賞金額から算出される推定年収ランキングTOP10をご紹介します。この金額はあくまで賞金の5%にあたる「進上金」のみを計算したものであり、実際の年収はこれに数千万円単位の騎乗手当などが加算されるため、あくまで騎手のその年の活躍度を示す重要な指標としてご覧ください。

2023年 JRA騎手 推定年収ランキング(進上金ベース)

※総獲得賞金(本賞金+付加賞)に、騎手の取り分である5%を乗じて算出しています。

順位 騎手名 年間勝利数 総獲得賞金 推定年収(進上金)
1位 C.ルメール 165勝 約49億9,584万円 約2億4,979万円
2位 川田 将雅 135勝 約36億211万円 約1億8,010万円
3位 横山 武史 116勝 約28億368万円 約1億4,018万円
4位 松山 弘平 117勝 約26億5,760万円 約1億3,288万円
5位 岩田 望来 134勝 約24億1,452万円 約1億2,072万円
6位 戸崎 圭太 104勝 約22億5,567万円 約1億1,278万円
7位 坂井 瑠星 105勝 約20億8,703万円 約1億435万円
8位 西村 淳也 97勝 約20億1,894万円 約1億94万円
9位 鮫島 克駿 98勝 約18億2,042万円 約9,102万円
10位 武 豊 63勝 約16億4,449万円 約8,222万円

(出典:JRA公式サイト 2023年度リーディングジョッキー

このランキングを見ると、上位の騎手は軒並み進上金だけで1億円を超えていることが分かります。特にトップに輝いたクリストフ・ルメール騎手は、年間165勝という圧倒的な成績を挙げ、推定年収(進上金)は約2億5,000万円に達しています。これは、2位の川田将雅騎手に約7,000万円もの大差をつける驚異的な数字であり、現代競馬界における彼の支配的な立場を明確に示しています。

興味深いのは、勝利数と獲得賞金が必ずしも比例しない点です。例えば10位の武豊騎手は63勝ですが、G1などの大レースでの活躍が多いため、90勝以上を挙げた騎手よりも高い賞金を獲得しています。レースの「質」がいかに重要かが分かりますね。

ランキングから見えるトップ騎手の条件

このランキングは、単なる年収の比較以上のことを示唆しています。上位にランクインするためには、以下の要素が不可欠です。

  • 調教師や馬主からの厚い信頼:有力馬の騎乗依頼を継続的に得られなければ、賞金を稼ぐことはできません。
  • 高い勝率と連対率:依頼されたチャンスを確実にものにする技術と勝負強さが求められます。
  • 大レースでの実績:賞金額が跳ね上がるG1レースで結果を残せるかどうかが、トップと一流を分ける大きな境目となります。

まさに、このランキングは、どの騎手が今最も競馬サークルから厚い信頼を寄せられ、有力馬の騎乗依頼を勝ち取っているかを示す「実力の証明書」と言えるでしょう。そして、ここに名を連ねることが、全ての騎手にとっての大きな目標なのです。

地方騎手の年収ランキングを紹介

中央競馬の華やかな世界の陰で、日夜熱戦を繰り広げているのが地方競馬の騎手たちです。前述の通り、中央競馬との間には大きな経済的格差が存在しますが、その中でもトップに君臨する騎手たちは、中央のスタージョッキーに引けを取らないほどの高額な収入を得ています。ここでは、2023年のデータを基に、地方競馬全体の騎手年収ランキングTOP5を見てみましょう。

このランキングを見ると、ある非常に顕著な傾向が浮かび上がってきます。それは、ランキング上位者が「南関東4競馬場(大井・船橋・川崎・浦和)」の所属騎手でほぼ独占されているという事実です。これは、地方競馬の中でも南関東が他の地域に比べて事業規模が大きく、賞金水準が格段に高いためです。

2023年 地方競馬騎手 推定年収ランキング(進上金ベース)

※総獲得賞金に騎手の取り分である5%を乗じて算出しています。

順位 騎手名(所属競馬場) 年間勝利数 総獲得賞金 推定年収(進上金)
1位 笹川 翼(大井) 218勝 約12億6,481万円 約6,324万円
2位 森 泰斗(船橋) 259勝 約12億2,272万円 約6,113万円
3位 御神本 訓史(大井) 181勝 約9億3,347万円 約4,667万円
4位 矢野 貴之(大井) 144勝 約8億5,233万円 約4,261万円
5位 和田 譲治(大井) 116勝 約7億7,830万円 約3,891万円

(出典:地方競馬情報サイト等のデータを基に算出)

地方競馬のトップ騎手たちも、進上金だけで数千万円単位の非常に高額な収入を得ていることが明確に分かります。特に1位の笹川翼騎手と2位の森泰斗騎手は、ともに6,000万円を超えており、この金額は中央競馬の年収ランキングでもTOP10に割って入るほどの素晴らしい実績です。彼らは南関東という激戦区で、年間200勝以上という驚異的なペースで勝利を積み重ね、その地位を築き上げています。

中央競馬が原則として土日開催なのに対し、地方競馬は平日にも開催されるため、トップ騎手はほぼ毎日レースに騎乗します。そのタフネスさと勝利への執念が、この高収入に繋がっているのですね。

見過ごせない「格差」の問題

このランキングは地方競馬の騎手の夢を示すものであると同時に、その裏に潜む厳しい現実も浮き彫りにしています。

  • 中央競馬との格差:前述の通り、騎手全体の平均年収や各種手当の額を考慮すると、中央競馬との間には依然として大きな経済的格差が存在します。
  • 地方競馬内での格差:ランキング上位が南関東の騎手に集中していることからも分かるように、地方競馬という枠組みの中でも、所属する競馬場の経営規模によって収入に大きな差が生まれる「地域間格差」も深刻な問題です。

このように、地方競馬の騎手の年収は、一部のトップジョッキーが高額な収入を得る一方で、多くの騎手は中央競馬の騎手ほど恵まれてはいないというのが実情です。しかし、彼らはそれぞれの舞台で誇りを持ち、ファンの期待に応えるべく、日々技術を磨き続けているのです。

一番稼いだジョッキーは武豊騎手

毎年の年収ランキングでは、C.ルメール騎手を筆頭に、勢いのある若手や円熟期を迎えた中堅、そして短期免許で来日する外国人騎手たちの活躍が目立ちます。しかし、「騎手人生の生涯にわたって、最も多くの富を築いた騎手は誰か?」という問いに対しては、現時点ではただ一人、その名を挙げるほかありません。それは、競馬というスポーツの枠を超え、社会的なアイコンとして君臨し続ける「生きる伝説」、武豊騎手です。

1987年のデビュー以来、30年以上にわたって日本の競馬界のトップランナーとして走り続け、そのキャリアを通じて数えきれないほどの金字塔を打ち立ててきました。ファンを魅了する華麗な騎乗スタイルと、数々の大舞台で見せてきた驚異的な勝負強さは、語り尽くすことができません。

武豊騎手が打ち立てた主な大記録

彼の功績は枚挙にいとまがありませんが、その凄まじさを象徴する記録の一部をご紹介します。

  • JRA通算最多勝利記録:4,500勝以上(2位に1,500勝以上の大差をつけて独走中)
  • JRA・G1レース最多勝利記録:81勝(2024年宝塚記念時点)
  • クラシック三冠達成:ディープインパクト(2005年)
  • 年間200勝達成:2回(2003年、2004年)

こうした輝かしい実績の結果、彼の騎乗馬が獲得した生涯獲得賞金の総額は、実に900億円に迫ると言われており、もちろんこれは歴代ダントツの1位の記録です。この天文学的な数字を基に、彼が生涯で手にした「進上金」を計算してみましょう。

武豊騎手の生涯進上金(推定)

騎乗馬の生涯獲得賞金:約869億円(2021年時点のイギリスの調査機関データに基づく)
※2024年現在ではさらに上積みされています。

この金額に騎手の取り分である5%を乗じると…

推定生涯収入(進上金のみ):約43億4,500万円以上

進上金だけでこの金額ですから、これまでの30年以上にわたる騎乗手当や、数多くのメディア出演料、CM契約料、さらには著作の印税などを含めると、実際の生涯収入は50億円を優に超えると考えるのが自然でしょう。「競馬界のレジェンド」と呼ばれるにふさわしい、まさに桁違いの実績と、それに見合う収入を手にしているのです。

43億円…!これはもはや一個人の収入というより、中小企業の売上高に匹敵する金額ですね。武豊騎手の輝かしいキャリアそのものが、騎手という職業の持つ夢の大きさを、何よりも雄弁に物語っています。

唯一無二の存在である理由

武豊騎手がこれほどの成功を収めた背景には、単なる騎乗技術の高さだけではない、いくつかの要因が考えられます。

  • デビュー時期の幸運:彼がデビューした1980年代後半は、バブル景気とオグリキャップブームが重なり、競馬が国民的レジャーとして爆発的な人気を獲得した時代でした。
  • スター性と発信力:競馬界の枠に収まらないスター性と、メディアを通じて競馬の魅力を分かりやすく伝える発信力で、新たなファン層を開拓しました。
  • 自己管理能力:大きな怪我を乗り越え、50歳を超えてもトップレベルのコンディションを維持し続ける、徹底した自己管理能力も特筆すべき点です。

今後、武豊騎手の記録に迫る騎手が登場するかは分かりません。しかし、彼が築き上げた偉大な功績と、その結果として得た莫大な富は、これからも長く語り継がれていくことでしょう。

ジョッキー年収ランキングの世界比較

日本の騎手の年収が高いことはご理解いただけたかと思いますが、その水準は世界的に見てどのくらいの位置にあるのでしょうか。競馬はイギリスで近代化され、アメリカ、フランス、オーストラリア、香港など世界中で愛されているグローバルなスポーツです。しかし、実は日本のJRAが設定するレースの賞金水準は、世界でも群を抜いてトップクラスに高いことで広く知られています。

その事実を客観的なデータで裏付ける、非常に興味深い調査結果があります。イギリスのオンライン・ベッティングガイド「OLBG」が2021年に発表した「世界のジョッキー・生涯獲得賞金トップ50」では、競馬ファンなら誰もが驚くであろう結果が示されました。

世界の騎手 生涯獲得賞金ランキング TOP10(2021年発表)

騎乗馬が獲得した賞金の総額に基づいたランキングです。

順位 騎手名(国籍) 生涯獲得賞金(ドル)
1位 武豊(日本) 約7億9,610万ドル
2位 横山典弘(日本) 約5億6,063万ドル
3位 蛯名正義(日本) 約4億7,942万ドル
4位 福永祐一(日本) 約4億7,940万ドル
5位 ジョン・ベラスケス(アメリカ) 約4億3,064万ドル
6位 柴田善臣(日本) 約4億1,698万ドル
7位 岡部幸雄(日本) 約3億5,858万ドル
8位 ハビエル・カステラーノ(アメリカ) 約3億5,478万ドル
9位 藤田伸二(日本) 約3億5,006万ドル
10位 岩田康誠(日本) 約3億4,557万ドル

なんと、このランキングのトップ10のうち、実に8名が日本人騎手という、驚異的な結果となっています。アメリカ競馬のレジェンドであるジョン・ベラスケス騎手やハビエル・カステラーノ騎手ですら、日本のトップジョッキーたちの後塵を拝しているのです。これは、日本の競馬の賞金がいかに高額であるかを、何よりも雄弁に物語っています。

ライアン・ムーア騎手(イギリス)やジョアン・モレイラ騎手(ブラジル)といった、世界中の競馬関係者が「現役最強」と認めるトップジョッキーたちが、期間の限られた短期免許を利用してまで毎年のように日本へ来て騎乗する最大の理由も、この賞金の高さにあるのです。

なぜ日本の賞金はこれほど高いのか?

日本の賞金が世界的に見て高額である背景には、いくつかの要因が考えられます。

  • 世界最大級の馬券売上:前述の通り、JRAの年間馬券売上は3兆円を超え、世界でも類を見ない巨大なマーケットを形成しています。この豊富な資金が、高額賞金の源泉となっています。
  • 公営競技としての性格:日本の競馬は農林水産省が管轄する公営競技であり、その収益の一部は国庫に納付されると同時に、畜産振興などの目的にも使われます。安定した運営基盤が、高い賞金水準を維持することを可能にしています。
  • 生産者保護の観点:高額な賞金は、競走馬を生産する牧場経営者たちにとっても大きな魅力です。これにより、国内の競走馬生産のレベルを維持・向上させるという狙いもあります。

単純な勝利数だけを見れば、年間を通して数多くのレースが行われるアメリカなどの騎手の方が多い場合もあります。しかし、1レースあたりの賞金額が圧倒的に高いため、獲得賞金の総額では日本人騎手が上位を独占するという現象が起きるのです。この事実は、日本のトップジョッキーが、世界で最も稼げるアスリートの一つであることを明確に示していると言っても過言ではないでしょう。

中央競馬の騎手年収についての総括

この記事では、中央競馬で活躍する騎手の年収について、その収入の仕組みから国内外のランキング比較まで、多角的な視点から詳しく解説してきました。華やかな世界の裏側にある経済的な実情をご理解いただけたのではないでしょうか。最後に、本記事でご紹介した重要なポイントを、改めて一覧でまとめます。

本記事の重要ポイントまとめ

  • 収入体系は完全出来高制
    中央競馬の騎手の年収は、月給や年俸ではなく、自身の成績に直結する完全な「出来高制」です。一人ひとりが個人事業主として活動しています。
  • 収入の4本柱
    主な収入源は、成功報酬である「進上金」、基本給に近い「騎乗手当・騎手奨励手当」、所属騎手向けの「騎乗契約料」、そして「調教料」の4つから構成されます。
  • 年収の鍵は「進上金」
    年収を最も大きく左右するのは、レース賞金の5%(障害レースは7%)が配分される「進上金」です。高額賞金レースでの勝利がトップジョッキーへの道となります。
  • 1レースのインパクト
    有馬記念やジャパンカップといった最高峰のG1レースで優勝すれば、たった1回の騎乗で2,500万円もの進上金が得られます。
  • 安定収入の基盤「騎乗手当」
    レースに騎乗するだけで必ずもらえる「騎乗手当」と「騎手奨励手当」も重要な収入源です。G1レースでは合計80,500円が支給されます。
  • 新人でも夢がある
    新人騎手でも実力とチャンスを掴めば、初年度から1,000万円以上の高収入を得る可能性があります。近年でも衝撃的なデビューを飾る若手が現れています。
  • JRA騎手の平均年収
    中央競馬に所属する騎手全体の平均年収は、一般的に約1,000万円とされており、これは日本の平均給与を大きく上回る水準です。
  • 中央と地方の経済格差
    地方競馬の騎手の平均年収は300~500万円であり、事業規模の違いから中央競馬との間には大きな経済格差が存在します。
  • 2023年のトップジョッキー
    JRAの2023年年収ランキング1位はC.ルメール騎手で、進上金だけで推定約2億5,000万円を稼ぎ出しました。
  • 地方競馬の星
    地方競馬の年収トップは南関東の笹川翼騎手で、推定年収は約6,324万円と、中央のトップクラスに匹敵する実績を誇ります。
  • 生涯収入No.1は武豊騎手
    生涯で最も稼いだ騎手は「レジェンド」武豊騎手であり、これまでに得た進上金だけで43億円以上と推定されています。
  • 世界トップクラスの賞金水準
    日本のJRAが設定する賞金は世界でも群を抜いて高額であり、これが海外の一流騎手を惹きつける大きな要因となっています。
  • 世界ランキングを席巻する日本人
    世界の騎手の生涯獲得賞金ランキングでは、その高額な賞金を背景に、トップ10のうち8名を日本人騎手が占めるという驚異的な結果が示されています。
  • 夢とリスクは表裏一体
    騎手は高収入を得られる可能性がある一方で、常に落馬による大怪我のリスクと隣り合わせの厳しい職業です。成功の裏には、計り知れない努力と覚悟が存在します。

騎手という職業は、単なるアスリートではなく、自身の技術と信頼を武器に収入を切り拓いていく経営者としての側面も持ち合わせています。この記事が、競馬をより深く楽しむための一助となれば幸いです。

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