競馬を見始めたばかりのころ、「G1」や「G2」といった言葉を耳にして、その違いがよく分からなかった経験はありませんか。競馬のレースには、実はしっかりとしたクラス分けが存在します。GIのGとは何を意味するのでしょうか?という基本的な疑問から、競馬のG1とG2・G3にはどのような違いがあるのか、競馬レースの格付けが日本でどう運用されているのか、といった点は初心者にとって最初の壁かもしれません。この記事では、競馬の重賞とは何かという根本的なテーマから、G1格付けの基準、さらにはオープンとリステッドの違いまで、競馬のクラスやリステッドに関する情報を網羅的に解説します。また、「ステークス」とはどういう意味?といった細かな用語や、少し複雑な競馬のG1とJpn1の違いは?という疑問にもお答えし、G1がどれほど特別なレースなのかを深く理解できるよう、分かりやすく紐解いていきます。
- G1・G2・G3というレースの格付けの序列がわかる
- 賞金額や出走条件など具体的な違いがわかる
- 重賞以外のクラス分け(オープン・リステッドなど)の仕組みがわかる
- 競馬の専門用語の意味が理解できる
競馬のG1・G2・G3とは?レースの格付け基本を解説
- 重賞とは何か?
- GIのGとは何を意味するのか?
- 日本の競馬レース格付けの仕組み
- G1・G2・G3のレベルの違い
- G1とは最高の栄誉
重賞とは何か?
競馬における重賞(じゅうしょう)とは、数多く開催されるレースの中でも、特に重要度と格が高いと公式に位置づけられるレースの総称です。具体的には、本記事のテーマであるG1・G2・G3という3つのグレード(等級)に分類される特別なレース群がこれに該当します。
その名称は「重要な競走」の略称であり、歴史的には、実績のある強い馬ほど重い負担重量(斤量)を背負って出走する条件のレースが多かったことに由来するとも言われています。現代では、競走馬とそれに関わる全ての人々が目指す、シーズンのハイライトとなる最高峰の舞台を指す言葉として定着しています。
重賞レースの圧倒的な希少性
- YUKINOSUKE
JRA(日本中央競馬会)が主催する中央競馬では、一年を通じて約3,450ものレースが施行されますが、その中で「重賞」の称号が与えられているのはごく一部です。JRA公式サイトのデータによると、2024年に行われた重賞レースは平地競走で129レース、障害競走で10レースの、合計139レースしかありませんでした。
これは、全体のレース数のうち、わずか4%程度しか存在しないことを意味します。つまり、選び抜かれた一握りのエリート競走馬だけが出走を許される、非常に希少価値の高い舞台なのです。
2024年 中央競馬・平地重賞の内訳
- G1:24レース
- G2:38レース
- G3:67レース
このように、最高峰であるG1レースはさらに数が限られており、その希少性が際立っていることがわかります。
一般レースとは一線を画す「3つの価値」
重賞レースが特別視される理由は、単に格が高いからだけではありません。そこには、他の一般レースとは比較にならないほどの大きな価値が付随します。
- 経済的な価値:賞金額が桁違いに高く設定されています。G3でも1着賞金が4,000万円を超える一方、G1となれば数億円規模になります。さらに、勝利することで競走馬自身の資産価値が飛躍的に向上し、引退後の種牡馬・繁殖牝馬としての評価にも直結します。
- 名誉的な価値:重賞を制覇することは、馬主、生産者、調教師、騎手、厩務員といった、競走馬に携わるすべての人々にとって最高の栄誉です。特にG1勝利は、そのホースマンのキャリアにおいて金字塔として語り継がれます。
- 文化的な価値:ファンからの注目度も絶大です。馬券の売上は数十億から数百億円に達し、全国ネットでテレビ中継されるなど、社会的なイベントとしての一面も持ち合わせています。数々の名勝負や感動的なドラマが生まれるのも、この重賞レースが舞台です。
言ってしまえば、一年間の競馬シーズンは、これらの重賞レースを頂点として構成されていると言っても過言ではありません。すべての競走馬は、この栄光の舞台に立つことを夢見て、日々の厳しいトレーニングに励んでいるのです。
ファンファーレが通常と違う特別仕様になったり、表彰式に著名なプレゼンターが登場したりと、演出面でも重賞は特別扱いされています。競馬場に行くと、その独特の緊張感と高揚感を肌で感じることができますよ。
GIのGとは何を意味するのか?
- YUKINOSUKE
重賞レースの名称で必ず目にするアルファベットの「G」は、「グレード(Grade)」という英単語の頭文字から採用されたものです。この言葉が持つ「等級」「階級」「格」といった意味の通り、レースの重要度やレベルを序列化するための、世界共通の格付け記号として使用されています。
つまり、G1と表記されていれば「グレードワン」を意味し、競馬の競走体系における最高位のレースであることを示しています。このGを頂点として、それに次ぐG2(グレードツー)、さらにG3(グレードスリー)という明確な序列が定められているのです。
グレード制導入以前の日本競馬
このグレード制が日本の中央競馬に導入されたのは1984年のことです。それ以前の日本では、レースの格付けに国際的な基準が存在しませんでした。もちろん、当時から特に格式高いレースは存在しており、例えば五大クラシック競走や天皇賞(春・秋)、有馬記念などを総称して「八大競走」と呼ぶなど、日本独自の評価軸でレースは格付けされていました。
しかし、この格付けは日本国内でしか通用しないものでした。1981年に国際招待競走である「ジャパンカップ」が創設されるなど、日本の競馬が国際化への道を歩み始める中で、日本のレースや競走馬の価値を、海外の競馬関係者にも分かりやすく示すための「世界共通の物差し」が必要になったのです。そこで、すでに欧米でスタンダードとなっていたグレード制を導入するに至りました。
歴史を彩った「八大競走」
グレード制導入以前に、特に高い格式を誇っていた8つのレースの総称です。具体的には以下のレースが該当します。
- 皐月賞
- 東京優駿(日本ダービー)
- 菊花賞
- 桜花賞
- 優駿牝馬(オークス)
- 天皇賞(春)
- 天皇賞(秋)
- 有馬記念
現在では、これらのレースはすべてG1に格付けされています。
グレード制がもたらした多大なメリット
グレード制の導入は、単にレースの呼び方が変わっただけではありません。ファンから競馬関係者に至るまで、多くのメリットをもたらしました。
- ファンにとっての分かりやすさ向上:「G1が頂点」という明確な序列ができたことで、一年間のレース体系が非常に理解しやすくなりました。「G3からステップアップしてG2を勝ち、ついにG1に挑戦する」といった、競走馬の成長物語を追いやすくなったのは、この制度の大きな功績です。
- 生産界・馬主にとっての価値基準の明確化:重賞、特にG1を勝利することが、競走馬の資産価値をどれだけ高めるか、その基準が国際的に明確になりました。G1馬の称号は世界中で通用するため、引退後の種牡馬・繁殖牝馬としての価値評価において、極めて重要な指標となっています。
- 競馬の国際化推進:海外の競走馬が日本のレースに参戦する際や、日本の馬が海外遠征を行う際に、レースのレベルを客観的に比較できるようになりました。これにより、国際的な馬の交流が活発化する礎が築かれたのです。
このように、「G」という一文字は、日本の競馬が国内の娯楽から国際的なスポーツへと発展していく上で、不可欠な役割を果たしたシンボルと言えるでしょう。
今では当たり前に使っている「G1」という言葉ですが、その背景には日本の競馬を世界レベルに引き上げようとした先人たちの努力があったのですね。歴史を知ると、レース観戦にも一層深みが増します。
日本の競馬レース格付けの仕組み
日本の競馬では、競走馬の実力が伯仲したエキサイティングなレースを提供するため、そしてファンが競走馬のキャリアを追いやすくするために、明確なピラミッド型のクラス分け制度が採用されています。これにより、馬は自身の能力に応じたレースに出走し、勝利を重ねることで、より格上のレースが待つ上位クラスへと昇っていくことができます。
この仕組みは、競走馬のキャリア全体を貫く、壮大な「出世物語」の脚本とも言えるでしょう。ここでは、その旅路の始点から頂点までを具体的に解説します。
すべての馬が通る道:「条件戦」クラス
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G1という華やかな舞台に立つ馬も、最初はこの「条件戦」と呼ばれるクラスからキャリアをスタートさせます。
- 新馬戦(しんばせん):
文字通り、まだ一度もレースに出走したことのない「新馬」だけが出走できるデビュー戦です。同じスタートラインに立った若駒たちが、未来のスターホースを目指して最初の火花を散らします。 - 未勝利戦(みしょうりせん):
新馬戦で勝てなかった馬や、まだ一度も勝利経験のない馬が出走するクラスです。ここでまずは「最初の1勝」を挙げることが、競走馬としてのキャリアを続けるための最低条件となります。
未勝利戦に課せられた厳しい時間制限
競走馬はいつまでも未勝利戦に出走できるわけではありません。3歳の秋頃(例年9月上旬)までに初勝利を挙げられないと、JRAの規則により、中央競馬のレースに出走することが原則としてできなくなってしまいます。このため、夏競馬の未勝利戦は、馬たちにとってまさに生き残りをかけたサバイバルレースとなるのです。
オープンクラス内の序列
【頂点】 G1 (グレードワン)
↑ G2 (グレードツー)
↑ G3 (グレードスリー)
↑ L (リステッド競走)
【底辺】 オープン特別
このように、オープンクラスに上がった後も、さらに厳しいピラミッドが待ち受けています。競走馬たちは、この頂点であるG1レースでの栄光を目指し、一戦一戦しのぎを削っているのです。
競馬のG1・G2・G3のレベルの違い
G1、G2、G3は、いずれも「重賞」という高い格付けのレースですが、その間にはファンが想像する以上に大きなレベルの差が存在します。この違いを正しく理解することが、競馬の奥深さを知るための鍵となります。その格差は主に、「賞金規模」「競走体系における位置づけ」「勝利がもたらす価値」という3つの側面から浮き彫りになります。
ここでは、G1がいかに特別な存在であるかを中心に、各グレードの明確な違いを詳しく解説していきます。
① 賞金規模:レースの価値を映し出す指標
最も分かりやすい違いは、言うまでもなく賞金の額です。レースの賞金は、そのレースの重要性や価値を直接的に示す指標であり、グレードが一つ違うだけで金額は大きく変動します。
G1レースの賞金はまさに別格です。現在の日本で最高賞金額を誇る「ジャパンカップ」と「有馬記念」の1着本賞金は、2025年時点で5億円に設定されています。これは世界的に見てもトップクラスの賞金額です。これに対し、G2やG3も高額ではありますが、G1と比較すると明確な差が設けられています。
グレード | 1着本賞金 | 5着までの賞金総額 | 代表的なレース |
---|---|---|---|
G1 | 約1億2,000万円 ~ 5億円 | 約2億5,500万円 ~ 10億6,500万円 | 日本ダービー、有馬記念 |
G2 | 約5,000万円 ~ 7,000万円 | 約1億500万円 ~ 1億4,900万円 | 札幌記念、京都記念 |
G3 | 約3,000万円 ~ 4,000万円 | 約7,800万円 ~ 8,700万円 | 中山金杯、函館記念 |
この賞金は、馬主だけでなく、管理する調教師、騎乗した騎手、日々の世話をする厩務員にも規定の割合で分配されます。一つの勝利が、多くの人々の努力に報いる大きな経済的対価となるのです。
② レースの位置づけ:「決勝戦」と「予選」の違い
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一年間の競馬シーズンは、各G1レースを頂点とする壮大な物語として構成されています。その中で、各グレードは明確な役割を担っています。
- G1:チャンピオン決定戦(決勝戦)
G1は、各路線やカテゴリーにおける紛れもない「チャンピオン決定戦」です。3歳世代の頂点を決める「日本ダービー」、国内外の強豪が激突する「ジャパンカップ」、そしてファン投票で出走馬が選ばれる年末の総決算「有馬記念」など、その年の王者を決めるための最高の舞台として位置づけられています。 - G2・G3:前哨戦・トライアル(予選・ステップレース)
これに対してG2やG3の多くは、特定のG1レースに向けた「前哨戦(ぜんしょうせん)」としての役割を担います。これらのレースは、有力馬がG1本番に向けて調子を上げていくためのステップレースであると同時に、まだ実績のない馬にとってはG1への出場権を懸けた重要な「トライアルレース」でもあります。
G1への切符「優先出走権」
特定のG2・G3レース(トライアルレース)で上位3着以内など、定められた着順に入った馬には、目標とするG1レースへの「優先出走権」が与えられます。収得賞金が足りずにG1出走が危うい馬にとって、これはまさに「金の切符」であり、本番さながらの激しいレースが繰り広げられます。
③ 勝利の価値:未来を創る「最高の栄誉」
G1レースでの勝利が「最高の栄誉」と称される最大の理由は、その一勝が、競走馬の未来の価値、ひいては競馬の歴史そのものを創り変えるほどの絶大な影響力を持つからです。
もちろん、G2やG3の勝利も素晴らしい名誉ですが、G1の勝利がもたらす価値は質的に異なります。その核心にあるのが、引退後の「種牡馬(しゅぼば)・繁殖牝馬(はんしょくひんば)」としての価値です。
- 種牡馬としての価値:
G1を制した牡馬は、その優れた競走能力を次世代に伝える「種牡馬」として、第二のキャリアを歩む道が開かれます。その評価額は時に数十億円にも達し、産駒たちの活躍次第では、競馬界全体の血統地図を塗り替えるほどの存在になり得ます。伝説的な名馬ディープインパクトのように、一頭のG1馬が生産界に与える経済的・歴史的影響は計り知れません。 - 繁殖牝馬としての価値:
G1を勝利した牝馬もまた、極めて価値の高い「繁殖牝馬」となります。その子供はセリ市で高額で取引され、牧場の未来を担う存在として大切に育てられます。
年間約7,000頭生産されるサラブレッドの中で、G1の栄光を掴めるのは、世代ごとにほんの数頭のみ。この圧倒的な希少性が、G1勝利の価値を絶対的なものにしているのです。
G1制覇への道は極めて険しい
デビューしたすべての馬がG1を目指しますが、そもそもオープンクラスまでたどり着ける馬自体が少数です。そこからさらに強力なライバルたちを打ち破り、G1の表彰台に立つことはまさに至難の業。多くの名馬たちが、あと一歩のところで夢破れ、ターフを去っていくのが競馬の厳しい世界です。
G2やG3には、G1では見られないような面白いメンバーが集まることも多いんです。「G1では少し足りないけど、G2・G3なら主役」というような職人肌の名馬もたくさんいます。そうした馬を探すのも、競馬の楽しみ方の一つですよ。
競馬のG1・G2・G3とは?関連クラスも併せて理解
- G1格付けを維持する基準
- クラス分けの仕組み
- クラスにおけるリステッド
- オープンとリステッドの違い
- 「ステークス」とはどういう意味?
- G1とJpn1の違いとは
競馬のG1格付けを維持する基準
一度G1に格付けされたレースが、その栄誉ある地位を未来永劫にわたって保証されているわけではありません。G1という最高峰の格付けは、毎年その価値を証明し続けることで初めて維持される、非常に厳格な称号なのです。その品質保証の根幹をなすのが、「レースレーティング」と呼ばれる国際的な評価基準です。
これは、G1レースが単なる国内のお祭りではなく、世界に誇るべき一級品の競走であり続けるための、いわば「品質管理システム」と言えるでしょう。
レースのレベルを数値化する「レースレーティング」とは?
レースレーティングとは、その年のレースに出走した馬たちのレベルを客観的な数値で評価する指標です。具体的には、そのレースにおける上位4着までに入った馬の「パフォーマンスレーティング」の平均値によって算出されます。
ここで言う「パフォーマンスレーティング」とは、専門家であるハンデキャッパーが、個々の馬がそのレースで見せたパフォーマンスを評価して数値化したものです。走破タイム、対戦相手のレベル、負担重量(斤量)、レース展開といった様々な要素を考慮して算出される、いわば「そのレース限定の能力指数」のようなものだとお考えください。
つまり、毎年レベルの高い馬たちが集結し、素晴らしいパフォーマンスを繰り広げることで、レースレーティングは高まります。逆に、出走馬のレベルが低かったり、低調な内容のレースが続いたりすれば、この数値は下がってしまうのです。
例えるなら、G1レースは「三つ星レストラン」のようなものです。最高の評価を得るだけでなく、その評価を維持するためには、毎年訪れる客(=出走馬)に対して、常に最高品質の料理(=ハイレベルなパフォーマンス)を提供し続けなければならない、ということですね。
G2へ「降格」も有り得る、厳格な審査基準
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レースレーティングの評価と管理は、公益財団法人ジャパン・スタッドブック・インターナショナル(JAIRS)内に設置された「日本グレード格付け管理委員会」が担っています。そして、G1レースとして存続するためには、委員会が定める基準値をクリアし続けなければなりません。
ただし、一度のレース結果で即座に降格となるわけではありません。審査は直近3年間のレースレーティングの平均値に基づいて行われます。もし、この3年平均が基準値を下回ってしまった場合、そのレースは翌年からG2へと「降格」するという、非常に厳しい措置が取られます。
このルールがあるため、レースを主催するJRAも、常に魅力的な馬が出走したくなるようなレース番組を編成し、レースの価値を維持向上させる努力を続けているのです。私たちが観戦している伝統のG1レースは、こうした見えない部分での絶え間ない努力によって、その権威と輝きが守られています。
降格がもたらす深刻な影響
G1からG2への降格は、単にレースの「格」が一つ下がるだけではありません。賞金の大幅な減額、競走体系における位置づけの変化、そして何よりも歴史と伝統に傷がつくことによる prestige の低下など、その影響は計り知れません。過去には、いくつかのG1レースが基準値割れの危機に瀕したこともあり、その度に大きな議論を呼んでいます。
G1格付けを維持するためのレーティング基準値(一部)
レースの価値を保つため、カテゴリーごとに以下のような具体的な数値目標が設定されています。
レースカテゴリー | 基準値 | 該当する主なレース |
---|---|---|
2歳限定G1 | 110.00 以上 | 朝日杯フューチュリティS、阪神ジュベナイルF |
3歳牝馬限定G1 | 109.00 以上 | 桜花賞、優駿牝馬(オークス) |
3歳クラシックG1 | 115.00 以上 | 皐月賞、東京優駿(日本ダービー) |
3歳以上/古馬G1 | 115.00 以上 | 天皇賞(春・秋)、ジャパンカップ、有馬記念 |
※上記はあくまで一部の例です。レースの条件(性別、距離など)によって基準値は細かく定められています。
競馬のクラス分けの仕組み
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前述の通り、競馬にはG1・G2・G3といった重賞以外にも、競走馬の実力に応じて細かくクラスが分けられています。この仕組みは、競走馬がそのキャリアを通じて歩む「出世の階段」そのものであり、これを理解することで、一頭の馬がG1という夢の舞台にたどり着くまでの道のりをより深く、そして楽しく追うことができるようになります。
ここでは、すべての競走馬が通るクラス分けのルートと、その昇級を司る特殊なルールについて、詳しく見ていきましょう。
①「条件戦」:すべての馬が通る出世争いの舞台
G1で輝かしい成績を残す歴史的名馬も、必ずこの「条件戦」と呼ばれるクラスからそのキャリアをスタートさせます。条件戦は、勝利数や後述する「収得賞金」によって出走できる馬が制限(=条件付け)されているレース群です。
- 新馬戦・未勝利戦(キャリアの始点)
「新馬戦」は、まだ一度もレースに出走したことのない馬だけが出られる、生涯一度きりのデビュー戦です。ここで見事に勝利すれば、次の「1勝クラス」へと進出できます。一方、新馬戦で敗れたり、まだ一度も勝利経験がなかったりする馬は「未勝利戦」に出走し、まずは待望の初勝利を目指します。 - 1勝クラス・2勝クラス・3勝クラス(昇級への道)
未勝利戦を勝ち上がると、次は「1勝クラス」に駒を進めます。そこで勝利を収めると「2勝クラス」へ、さらに勝てば「3勝クラス」へと、勝利を重ねるごとにクラスが上がっていく、非常に分かりやすい階段状のシステムになっています。
ちなみに、この「〇勝クラス」という呼び方は2019年から使われるようになったものです。それ以前は収得賞金額に応じて「500万下」「1000万下」「1600万下」と呼ばれていました。昔のレース映像や記事を見るときに、このことを覚えておくと混乱しなくて済みますよ。
②「オープンクラス」:トップホースが集う最高峰
3勝クラスという最後の条件戦を勝ち抜いた、ほんの一握りの実力馬だけが到達できるのが、最高位である「オープンクラス」です。「オープン」とは、出走条件が大きく開かれていることを意味し、このクラスに所属することで、初めてG1・G2・G3といった「重賞」への本格的な挑戦権を得ることができます。
③ クラス分けを司る特殊なルール「収得賞金」
競走馬がどのクラスに所属するかを決定づける、最も重要なルールが「収得賞金」制度です。これは競馬初心者にとって少し複雑な部分ですが、クラス分けの根幹をなすため、ぜひ押さえておきましょう。
ここで最も重要なのは、「収得賞金」とは、馬が実際にレースで稼いだ賞金(本賞金)の合計額とは全く異なる、ということです。あくまでJRAがクラス分けのためだけに運用している、内部的なポイント制度のようなものだと理解してください。
クラスごとの収得賞金
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競走馬は、自身の持つ収得賞金の額に応じて、以下のクラスに振り分けられます。
- 1勝クラス: 収得賞金 500万円以下
- 2勝クラス: 収得賞金 501万円 ~ 1,000万円
- 3勝クラス: 収득賞金 1,001万円 ~ 1,600万円
- オープン: 収得賞金 1,600万円超
この収得賞金は、主にレースで1着になることで加算されます。加算額はレースの格が上がるほど高くなります。また、重賞レースに限っては2着でも加算されるという特例があり、これがクラス分けの面白い部分でもあります。
競走の種類 | 収得賞金に算入される額 | 備考 |
---|---|---|
新馬・未勝利競走 | 400万円 | 初勝利を挙げると、収得賞金は0円から400万円になる。 |
1勝クラス | 500万円 | – |
2勝クラス | 600万円 | – |
3勝クラス | 900万円 | この勝利でオープンクラス入りが確定する。 |
重賞競走(G1/G2/G3) | 本賞金の半額 | 2着までが対象。例えば1着賞金8,000万円のG1で2着(本賞金3,200万円)に入ると、1,600万円が加算され、一気にオープン入りすることもある。 |
降級制度の廃止による影響
2019年夏に、年間で獲得した収得賞金に応じて下のクラスへ降格することがあった「降級制度」が廃止されました。これにより、クラス分けは一度上がると二度と下がることはない、純粋な昇級制度となりました。この変更により、各クラスでの戦いはより厳しくなり、競走馬の真の実力が問われるようになっています。
競馬のクラスにおけるリステッド
オープンクラスの中には、G1・G2・G3といった重賞のほかに、近年その重要性を増している「リステッド競走」という格付けのレースが存在します。これは2019年に日本の中央競馬で本格的に導入された、比較的新しいカテゴリーです。
リステッド(Listed)競走は、その格付けの位置づけから競馬ファンの間で「準重賞」という愛称で呼ばれることもあります。その名の通り、格付けとしては重賞(G3)のすぐ下に位置し、オープン特別よりは格上として明確に区別されています。レース名や出馬表で、レース名の後ろにアルファベットの「(L)」と表記されているのがリステッド競走の目印です。
オープンクラス内の格付け階層
リステッド競走の位置づけは、会社の役職に例えると分かりやすいかもしれません。
- G1・G2・G3:役員クラス
- リステッド(L):部長クラス(=準重賞)
- オープン特別:課長クラス
このように、同じオープンクラスの中でも、明確な序列が存在するのです。
リステッド競走が導入された背景
この制度が導入された直接的なきっかけは、前述の「降級制度の廃止」です。この変更により、一度オープンクラスに昇級した馬は下のクラスに戻れなくなり、オープンクラスに在籍する馬の数が大幅に増加することが予想されました。
その結果、同じオープンクラス内でも実力差が大きくなり、レースが一方的な展開になりかねないという懸念が生まれました。そこで、オープンクラスをさらに細分化し、より実力が拮抗した質の高いレースを提供するために、リステッド競走が新設されたのです。
ただし、どんなオープン特別でもリステッド競走に格上げされるわけではありません。原則として「過去3年間のレースレーティングの平均値が100以上(2歳・牝馬限定戦は95以上)」という厳しい基準をクリアした、歴史と実績のあるレースのみがリステッド競走として認められます。これは、そのレースが常にレベルの高いメンバーを集めてきたことの証明でもあります。
リステッド競走は、重賞を勝つには一歩及ばない実力馬たちにとっての大きな目標となるだけでなく、怪我などで長期休養していたG1級の馬が、復帰戦の舞台として選ぶことも多いです。骨のあるメンバーが揃うため、予想のしがいがあるレースですよ。
競馬のオープンとリステッドの違い
同じオープンクラスに属しながらも明確に区別される「オープン特別」と「リステッド競走」。この2つのレースは、特に競馬を深く楽しむ上で、そして競馬という産業を理解する上で、その違いを知っておくことが非常に重要です。両者の決定的な違いは、「格付け」「賞金体系」、そして何よりも「血統的価値」という3つのポイントに集約されます。
ここでは、両者の違いを比較しながら、リステッド競走が持つ特別な意味について掘り下げていきます。
比較項目 | リステッド競走(L) | オープン特別 |
---|---|---|
格付け(序列) | 高い(準重賞) G3のすぐ下に位置する。 |
低い リステッド競走の下に位置する。 |
収得賞金 | 高い 勝利時の加算額がオープン特別より高く設定されている傾向がある。 |
低い リステッド競走より加算額が低く設定されている。 |
本賞金 | 高い 1着賞金が2,000万円を超えるレースが多い。 |
低い 1着賞金が2,000万円未満のレースが多い。 |
血統的価値 | 勝ち馬は「ブラックタイプ」の対象 | 対象外 |
勝者に与えられる永遠の称号「ブラックタイプ」
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上の表で示した違いの中で、最も重要かつ決定的なのが、「ブラックタイプ」の有無です。これは、競走馬の価値を未来永劫にわたって左右する、極めて重要な要素です。
ブラックタイプとは、サラブレッドのセリ(市場)で使われる血統表(カタログ)において、近親に特筆すべき実績を持つ馬がいる場合に、その馬名を黒の太字で強調して記載する、世界共通のルールのことです。この血統表は、生産者や馬主が将来活躍する馬を見出すための、最も重要な判断材料となります。
これまでは、このブラックタイプの対象となるのは、原則としてG1・G2・G3といった重賞競走で好走した馬に限られていました。しかし、リステッド競走の導入に伴い、リステッド競走の勝ち馬も、重賞好走馬と同様にブラックタイプの対象となったのです。
血統表における「ブラックタイプ」の絶大な効果
何百、何千という馬名が並ぶ血統表の中で、黒の太字で記載された「ブラックタイプ」の馬名は、プロのホースマンたちの目を瞬時に惹きつけます。それは、その馬が厳しい競争を勝ち抜いた優秀な血統背景を持つことの公的な証明であり、「この馬の子孫も活躍する可能性が高い」という強力なアピールになるのです。
このため、馬主や生産者にとって、リステッド競走での1勝は、単なる賞金稼ぎ以上の大きな意味を持ちます。それは、自らが育てた血統の価値を公的に高め、未来へと繋ぐための、計り知れないほど価値のある「1勝」なのです。この背景を知ることで、リステッド競走に懸ける関係者たちの熱い想いが、より深く理解できるのではないでしょうか。
「ステークス」とはどういう意味ですか?
競馬のレース名で頻繁に目にする「ステークス(Stakes)」という言葉。この響きに、どこか伝統的で格式高いイメージを持つ方も多いかもしれません。その感覚は正しく、この言葉の語源は、競馬が生まれた当初のレース形態そのものに深く根ざしています。
結論から言うと、「ステークス」は、元々はレースの参加者(馬主)自身が賞金を拠出して競い合ったレースを指す言葉でした。現在ではその意味合いが変化し、主にレースの格を示すための名称として使われています。
歴史的起源:「賭け金」を奪い合った真剣勝負
近代競馬が誕生した17世紀~18世紀のイギリスでは、競馬は貴族たちのためのスポーツであり、娯楽でした。当時のレースは、現代のように不特定多数の馬が出走するものではなく、多くは2頭の馬のオーナーが、どちらの馬が優れているかを決めるための「マッチレース」形式で行われていました。
その際、両陣営はプライドと高額な金品を「Stake(ステーク)=賭け金」として出し合い、勝者がそのすべてを総取りしたのです。この、参加者自身が賞金を懸けて行うレース形式が「ステークス競走」の始まりであり、その名が現在まで受け継がれています。
やがて、より多くの馬主が参加できるよう、各々が参加料を出し合って一つの大きな賞金とし、それを上位入賞者で分け合う「スイープステークス(Sweepstakes)」という形式に発展しました。重要なのは、いずれの形式においても、賞金の原資は主催者ではなく参加者自身であったという点です。
現代競馬に残る「ステークス」の痕跡
- YUKINOSUKE
現在の日本の競馬では、レースの賞金(本賞金)は、JRA(日本中央競馬会)が全額を負担しているため、本来の意味でのステークス競走は存在しません。しかし、その伝統は「付加賞(ふかしょう)」という形で、ささやかながらも受け継がれています。
付加賞とは?
重賞やリステッド競走、オープン特別といった、いわゆる「特別競走」に出走する際、馬主はレースごとに定められた「特別登録料」を支払う必要があります。
この馬主たちが支払った登録料の総額が、JRAが支払う本賞金とは別に「付加賞」として、そのレースの1着から3着(場合によっては5着)までの馬の馬主に、成績に応じて分配されるのです。これは、まさしく参加者(馬主)が出し合ったお金を勝者たちが分け合うという、ステークス競走の精神を現代に伝える制度と言えるでしょう。
現代における名称の使い分けルール
それでは、なぜ現代でも多くのレース名に「ステークス」が使われるのでしょうか。それは、JRAがレースプログラムを編成する上で、レースの格をファンに分かりやすく示すための名称として、意図的に使い分けているからです。
現在のJRAのルールでは、レースのクラスに応じて、以下のように名称が区別されるのが原則となっています。
- 2勝クラス以下の条件戦:
レース名には「〇〇特別」や「〇〇賞」が用いられます。(例:鴨川特別、ひめさゆり賞) - 3勝クラス以上の条件戦 および オープンクラス:
レース名には「〇〇ステークス」が用いられます。(例:安達太良ステークス、オクトーバーステークス)
このように、「ステークス」という名称は、その言葉が持つ歴史的な重みと格式高い響きから、3勝クラス以上の、よりレベルの高いレースであることを示すための目印として活用されているのです。
つまり、レース名に「ステークス」と付いていたら、「お、これは条件戦の中でも上のクラスか、あるいはオープンクラスのレースだな」と、一目で見分けることができるわけです。競馬新聞や出馬表を見るときに、ぜひ注目してみてください!
G1とJpn1の違いとは
中央競馬のファンでも、地方競馬の馬券を購入する際などに「G1」とは別に「Jpn1(ジャパンワン)」という格付け表記を目にすることがあります。この2つは、どちらもそれぞれのカテゴリーにおける国内最高峰のレースとして扱われますが、その性質には明確な違いが存在します。
結論から言うと、両者の最も大きな違いは「国際的な格付けを得ているか否か」という点に尽きます。
G1とJpn1の定義の違い
- G1(グレードワン):国際格付番組企画諮問委員会(IRPAC)が定める厳しい基準をクリアし、国際的にその価値が承認された国際競走です。これにより、海外から遠征してきた外国調教馬も出走することが可能です。
- Jpn1(ジャパンワン):現時点では国際的な承認は得ていないものの、日本国内の基準においてG1に相当するレベルと格付けされたレースです。原則として、出走資格があるのは日本国内で調教されている馬に限られます。
もともと日本のグレードは国内独自の基準で運用されていましたが、2007年に日本が国際セリ名簿基準委員会のパートⅠ国に昇格し、競馬の国際化が本格的に進んだことで、格付け表記を世界基準に合わせる必要が出てきました。その結果、国際基準を満たすレースは従来通り「G」を、それ以外の日本国内限定のハイレベルなレースについては、区別するために「Jpn」という表記を使用することになったのです。
現在、「Jpn」の格付けは、主に地方競馬場で開催されるダートグレード競走(例:東京大賞典は除く)で多く用いられています。これは、日本のダート競走がまだ国際的な評価を得る途上にあることを示していますが、近年ではダート三冠路線の整備など、その価値を高めるための様々な改革が進められています。
まとめ:競馬の格付けを理解して競馬をより楽しもう
この記事では、競馬のG1・G2・G3の違いを中心に、レースの格付けに関する様々な情報を深掘りして解説しました。最後に、本記事の要点をリスト形式で振り返ります。
- 重賞とはG1・G2・G3の総称で競馬界で特に格の高いレース
- Gとはグレードの略でレースの等級を示し1984年に日本で導入された
- 日本のレース格付けは新馬戦からG1までピラミッド構造になっている
- G1・G2・G3の主な違いは賞金額・出走馬のレベル・レースの位置づけ
- G1は各路線のチャンピオンを決める最高峰のレースで最高の栄誉とされる
- G1の格付けはレースレーティングという国際基準によって厳しく維持される
- 重賞以外のクラスは勝利数で昇級する収得賞金額によって分けられている
- リステッドは2019年に導入された準重賞でG3とオープン特別の中間に位置する
- オープンとリステッドの大きな違いは血統的価値を高めるブラックタイプの有無
- ステークスとは馬主が賞金を拠出したレースが語源となっている
- 現在のステークスは3勝クラス以上のレース名に使われるというルールがある
- G1とJpn1の違いは国際的な格付けを得て外国馬が出走できるかどうか
- Jpn格付けは主に地方競馬のダート交流重賞で見られる
- これらの格付けの仕組みを理解すると馬の強さやレースの重要性がわかる
- 競馬予想やレース観戦がこれまで以上に面白くなること間違いなし
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